20年寄り添う時計と、町の時計屋さん──SEIKOクロノグラフと私の記憶

メモリー

「この時計は、父からの就職祝いだったんです。」

そう伝えたとき、時計屋の店主さんは一瞬、手を止めて私の顔を見て、優しくうなずいてくれました。

私がこのSEIKOのクロノグラフと出会ったのは20年前。まだ社会人として右も左もわからなかった頃、父が「これからは時間に責任を持つ立場になるんだぞ」と、照れ隠しのように言って渡してくれた一本です。

それからこの時計は、私の人生にずっと寄り添ってきました。

仕事で落ち込んだ日も、家族と過ごす穏やかな休日も、この時計は同じリズムで時を刻んでくれていました。電池が切れるたびに足を運ぶのは、いつも決まった町の時計屋さん。最初は少し敷居が高い気もしていたけれど、今ではすっかり“帰ってくる場所”のような存在です。

今回も、秒針の不具合と電池交換でお預けすることに。二代目の店主さんに代替わりしているけれど、初代のご主人も現役で店頭に立っておられました。その姿を見るだけで、時計だけじゃなく「記憶」も一緒にメンテナンスしてもらえるような、あたたかい気持ちになります。

「この時計は本当に大切なんです」と正直にお伝えしたところ、店主さんは頷きながらこう教えてくれました。

「長期間使わないと、電池が液漏れする場合がございます。もしまたしばらく使わないようであれば、電池を外すだけでもお持ちいただいて大丈夫ですよ」

その一言に、プロとしての誠実さと、道具を大事に思う人へのまなざしが感じられて──ちょっと胸が熱くなってしまいました。

今回の修理は軽微なものでしたが、私にとっては「10万円以上の価値」があったと断言できます。お金ではなく、信頼と記憶と、人生の重みをメンテナンスしていただいた、そんな感覚でした。

この時計屋さんはSEIKOに強い印象がありますが、他メーカーの時計でも一度相談する価値は“必ず”あると思います。接客は温和で、説明もとても分かりやすく、何より人の話を丁寧に聞いてくれる。これからも、私はこの町の時計屋さんに通い続けます。

もし、あなたの手元に「もう一度、動かしてあげたい時計」があるなら──ぜひ、信頼できる人に預けてみてください。

その時計は、きっとまた、あなたの時を刻みはじめます。

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